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2023-04-06

新潟に住むある男の冬の暮らし ~【生きる事の本質】を考える~

 春は田畑を耕し新芽を摘み、夏は海の幸を獲り、秋は実りを頂いて、冬に命を感じる。もうずっとそうやって生きてきた。

 自分は30代になって初めて狩猟免許を取得し、猟銃の所持許可を取得しました。子供の頃から狩猟が身近にあったため、自分でやるようになってからもさほど目新しさを感じずにいます。

 本来人間を含めた多くの生物は季節と共に生きてきました。勿論それぞれのライフスタイルがあるので、例えば熊なら冬眠しますが、人間はしつこく普段の生活を送ります。それでもかつての人間の冬の暮らしは半ば冬眠のような感じだったようです。季節に関係ない暮らしを送れるようになったのはここ最近の発展によるもののようです。

 サバイバル登山家の服部文祥さんは、冬になると所有する山奥の古民家で寝泊りをしながら昔ながらの生活を実践しています。それらを綴った書籍はとても面白いですし、現代の社会の在り方に問いかけるような内容は一見の価値ありと思います。

 服部さん程ではないにせよ、自分も季節毎に送る生活様式があります。意識しなくても習慣として自然と共に生きてきました。今回はそんな自分の冬の暮らしを通して、【生きる事の本質】を少しだけ考えてみたいと思います。

動画はコチラ↓

目次

◆冬のカモ猟

 新潟県では11月15日~2月15日が狩猟期間になっています。現在はシカ・イノシシに関して3月15日まで猟期が延長される事があります。

 多くの湿地帯や大河川に恵まれた新潟県では昔からカモ猟が盛んで、新潟の狩猟と言えばカモ猟が代名詞と言っても過言では無いのではと思います。今シーズンも無事に猟師として狩猟者登録を終え、鉄砲を担いで雪が降る野へと出かけました。

●平野部にも【冬】が降りてくる

 前回の記事では獲物を追って山の奥深くへ入る話を書きました。シーズンの初めはまだ山の中も積雪が無いのですが、程なくして雪が降ると熊も冬眠に入るのでそのまま雪と共に里へと下りてくる…ってな感じで毎年猟の計画を立てています。

 12月の中旬、例年通り平野部にも雪が積もり、寒気と共に沢山のカモ類が新潟にやってきました。山奥の散策から初めてこの流れが自分的に丁度良いのです。シーズンの序盤でまだ雪が積もっていない藪でキジ猟もできるのですが、広く動いている時期なので犬無しでキジを撃つのは結構大変なのです。

 そうです、自分は猟犬を持たない単独猟なので一般的な散弾銃猟とはやり方が少々異なります。基本的には犬が踏み出した獲物を撃ち落としたり、一斉に飛び立ったカモの群れに向かって複数人でバンバン発砲して撃ち落としまくるのが一般的な散弾銃猟なのですが、自分は藪からの忍び撃ちがメインです。一羽ずつ丁寧に獲るようなイメージです。使用する実包の数も少なく済みます。

●とても立派なアオクビに恵まれる

 カモ猟が始まって最初の獲物はヨシガモだったのですが、色々あって写真や記録などを残す事ができませんでした。それから少しして仕留めたのがこのアオクビ(マガモのオス)でした。

 狩猟鳥獣のカモ類の中では一番大きい種類で、この辺りでは記事と並んで非常に人気の獲物です。

 当然ですがこのカモにも同じ群れの仲間が沢山居て、自分の親兄弟すなわち家族が居たであろう事も容易に想像できるわけです。朝目が覚めて、まさか自分が茂みから放たれる銃弾によって命を落とす事など考えもしなかったでしょう。狩猟をする以上絶対にその感覚だけは忘れてはいけないと思っているのです。

同じ日に二羽目

 同じ日の少し離れた所でもう一羽アオクビを仕留めました。

 先も述べたように自分のスタイルは装薬銃による犬無し単独忍び猟です。一発撃つと近くに居る獲物は一斉に飛び去ってしまうので数が獲れないのが欠点です。なので数を仕留める為には場所を移動する必要があります。

 カモの銃猟は一人一日5羽までと狩猟法で定められています。数を獲らないとすぐに食べ終わってしまう為、複数人で群れを撃つ必要があるのです。3人で猟を行えば15羽まで獲れる事になります。

 自分のやり方はフィールドとカモの生態を良く知っていないと非常に効率が悪くなってしまいます。逆に言えば、他の猟師と違う行動パターンになるので獲物に困る事は無かったです。

●獲物の行動パターン

 獲物にはそれぞれ特有の行動パターンがあります。仕留める為にはそれらを熟知する必要があるのですが、基本的な習性は本などで座学で学び、自分のフィールドでは獲物や環境をよく観察してその現場に合ったやり方を見つけていく必要があります。

 多くの獲物は早朝から朝時分にかけて活発に活動するのでそのタイミングで出猟するのが最も遭遇率が高くなります。カモやキジも朝一からポイントを巡回して獲物を探します。カモの場合午前と午後で付き場所が変わる事が多いので、シーズン中でも一日潰してポイントチェックに使う日があっても良いと思います。その方が別の日に効率よく獲物を仕留める確率が上がります。

 カモ類は割と毎年同じ場所に付く傾向があります。いくつかメボシを付けて巡回すればおのずと計画は立てやすくなるのですが、カモは基本的に捕食される側の生き物です。人間の気配が濃くなれば例え付き場になっていたとしても警戒心が強くなり、なかなか仕留めるに至らなくなります。ルアーフィッシングでいう所の『スレる』と言った状態になる訳です

 限られた猟場を何人もの猟師が回るのでどうしてもシーズンの後半につれてポイントが潰れていきます。

●別の日

 この日も朝からカモ猟の為に出かける。

 朝からボソボソと雪が降り積もるこの日、運よくポイントに付いてすぐに仕留められました。ですが場所が悪く、水に浮いた獲物が流されてしまい回収にだいぶ手間取ってしまいました。

 獲物の回収ができて初めて『狩猟』です。回収ができなければ狩猟ではなく殺生です。特に水鳥では回収が大変な事が多いので、撃つ前に必ず回収できるのかどうかを見極めなければなりません

 これは余談ですが、鉄砲やる人の中には撃つのは好きだが獲物を処理するのは面倒だと思う人が居ます。逃げ回る獲物を銃で撃ち殺して、回収に失敗したフリをして死体を放置する者も居ます。釣りする人でも結構多いタイプなのですが、釣るのは楽しいが捌くのはメンドクサイと言って釣った魚を他人に『おすそ分けというテイで押し付ける』事はよくある事です。

 日本では狩猟も釣りも『遊び』とされています生き物を殺して手に入れる遊びです。本来であればそこには生命倫理が備わってなければならないのですが、現代社会では特に親が教えるわけでもなく、かと言ってわざわざ学ぶ事ではないとされているように思います。一応狩猟試験ではわずかに触れる部分でもありますが…。自分で言うのもなんですが、狩猟を【趣味】と呼ぶことに少々違和感を感じています。人間とはそんな矛盾を抱えているものです。

 畜産などでもそうですが、スーパーに当たり前に肉が並んでいるのにその肉がついこの間まで生きていた事など誰も考えもしないものです。自分じゃない誰かが自分の代わりに処理してくれているのに、まるで臭い物に蓋をするように。

●今シーズン最後のカモ

 今季は多忙な事もあってあまり積極的に活動できなかった事が心残りになってしまいました。本当ならもっと自然や獲物と向き合う時間を作って、自分の中に哲学を落とし込む事ができたらと考えているのですが、社会の中での暮らしは自分の暮らしとは別の事として活動している…という感覚でいる自分が居ます。例えばそれが農業で食料生産して社会貢献しても、それで生活が成り立つわけではないのと同じようなものです。質素な暮らしをしていても結局税金やら自治会費やらと支払いは発生してしまいますから、現金が必要不可欠になるのです。

 最後の獲物を手に色々考えてみる。人々はお互い首を絞め合うような暮らしを送っているのではなかろうか。勿論それはものの見方によるのでしょうが、考えてみれば助け合いと見せかけた奪い合いは案外多いものです。イワシが群れでグルグル回るのは、自分が群れの内側に入れば捕食される確率が下がる事を知っていて一匹一匹がそのような考えで行動してあのような動きになるそうです。

 生活する事を目的として働くなら、やはり現代人は少々働きすぎであるのです。

◆自然食材は最高のご馳走

 さて、なんやかんや今期も立派なアオクビに恵まれた事は感謝の極みです。なるべく一発で仕留め、可能な限り綺麗に処理し無駄を出さず、生き物としての敬意と尊厳を守って両手を合わせる

 一羽のカモからムネ・モモ・ササミ・手羽先・手羽元・皮・ボン尻・砂肝・ハツ・レバー・ガラ(骨)その他切り落とし…と、可食部位は充実しています。ジビエは個体差が大きいと言われますが、カモ類に関しては同種であまり差を感じる事はありません。そんな部分も人気の獲物と言われる所以かも知れません。

●捨てる所は殆ど無い

 実際に精肉したカモ肉。一番難しいのは…毛の処理ですね^^;。子供の頃からこの時期の【ノガモ】はやはりご馳走でした。昔は鍋など汁物にする事が多かったですが、現代は様々な料理で楽しみますね。自分も最近カモのムネ肉でローストダックを覚えました。因みにこのムネ肉、【カモロース】と呼んだりもします。

丁寧に処理して最高の一品に自分で仕上げる

 食料は基本的にスーパーなどで既に処理済みの物を購入して自宅に持ち帰り、それを料理するのが普通です。人間は社会でこの仕組みを作り上げた事で文化文明は大きく発展していきました。何故なら自分で田畑を耕す必要も無ければ、自分で網や釣り竿で魚を獲る必要も無いですし、自分で鉄砲で獲物を仕留めて捌いて精肉する必要も無いからです。

 人間の生活の基本は衣食住ですが、全部自分達で賄おうとすると膨大な手間と時間が掛かります。社会の仕組みでそれらをアウトソーシングする事でそれぞれが自分の得意分野に注力できる事で文明が発展したと言っても過言ではないのではないでしょうか。

 だからこそ現代では、自分の手でわざわざ手間をかけて用意する事に価値を見出している人も居ます。お金を出せば簡単に手軽に手に入る物ですが、【体験】として全ての行程を自分で賄うのです。

 自分にとっては馴染みの生活スタイルですが、このカモ肉は他では手にできない最高の一品です。

●冬は保存食を食べる時期でもある

 昨年の春に採ったゼンマイで干しゼンマイを作っていました。

新潟の美しい山菜達を求めて山歩き・後編(ゼンマイ) ~2022春~ – Crop-of-Life ←当時の記事はコチラ

 干物や漬物は食べる物が乏しい冬の間の貴重な食料として重宝してきました。一度作ってしまえば通年通して利用できるのですが、秋までは色々食べる物があるので干しゼンマイもワラビの塩漬けも冬に消費する事が多いです。

 天日干しにしてよく水分を飛ばし、太陽光で殺菌する事で長期保存もできるようにしています

 昨年の春にこうやって揉みこんでいたのが懐かしいくらいですw。

 ゼンマイはアクが極めて強い山菜ですが、煮出して干して、こうやって揉みこむことでアクが抜けて香り高い故郷の味になります。

畑で採れた人参を和えて

 ゼンマイとカモ肉を人参と和えて煮込んだものです。人参は我が家の畑で採れたモノです。食材のストーリーを知っているという事はそれだけで格別と言える事でしょう。

 今でこそ格別と思えますが、昔はむしろこれで当たり前だったと思うとなんだか不思議な感じがしますね。全部買い物だけで揃うようになったのなんてここ40年くらいとかでしょうか。それでも自分が子供の頃でもまだ自分で色々用意するのが当たり前な感じでした。

●冷凍技術は人類最高の保存記述

 稲刈りの時期に沢山釣れたアジ。殆どが豆アジ子アジですが、中には大きいモノやサバやカマスなんかも混じって楽しい釣りになりました。

夫婦の時間の過ごし方、秋の釣りは美味しい手軽な数釣り – Crop-of-Life ←当時の記事はコチラ

 あまりに沢山釣れるので釣れるうちに冷凍保存しました。干物も考えたのですが、さすがに手間がかかりすぎるので今回は見送りました^^;。これだけの食料を一度に沢山、しかも簡単に保存できる冷凍技術は人類最高の保存方法で間違いないでしょう!

 でも本当は【冷蔵庫に頼らない保存】を一番意識していたりもしますw。

南蛮漬けも立派な保存食

 人参もタマネギも畑で採れたモノを利用しています。南蛮漬けって要するに酢漬けのような感じなのですが、古今東西これらの漬け汁を使用した漬物も立派な食料保存方法ですね。干物や塩漬け程長期保存はできませんが、作っておいたら取り出してすぐに食べられる点では非常に便利な方法です。冷蔵庫で一週間とか平気で持ちますね^^。

 それくらいは保存食とは言えない!…と、思う人も居るかも知れませんが、元々食料という物は何もしなければ一日で食べられなくなるのが普通でした。生鮮食品なんて保冷できなけりゃ大抵数時間でダメになりますし。

 冷蔵庫が無かった時代、僅か数日でも良いから食料が日持ちしてくれたらとどれだけ考えられた事でしょう。原始人なんて食べる物を探しているだけで一生が終わっていましたからね。

◆昔ながらの食文化

 【川ガニ】コチラでは川に居るモクズガニをそう呼んでいます。他の地域でどう呼ばれているかはちょっと分からないですが、自分の住んでいる地域では古くから親しまれています。

 冬の時期にカゴ罠などで漁獲します。まとまって獲れるので旬は冬となっていますが、初夏の時期では河口周辺の砂浜などでも獲る事ができます。因みに自分の住んでいる地域では内水面で漁業権が設定されているのでカゴ罠などを使っての漁獲が制限されているので、それらを使用してみだりに獲ってはいけません。

●少々臭みがあるのも、ある意味故郷の味

 ではコチラはどうしたのかと言うと、田舎と言えばおすそ分け、全部頂き物です。活ガニです!利用方法としては主に味噌汁の出汁に使います。ツメや足は食べる所が殆どありませんので、出汁がメインになります。個人的には若干川臭いと思っていますが、ある意味これも昔ながらの故郷の味です。初夏の海に落ちたモノは人によっては磯臭いと言います。いずれにしても臭いタイプではありますね^^;Ww

 さすがに量が多いので一度に消費する事ができない…と、言うか勿体ないのでお得意の冷凍保存をします。

 カニは非常に足が速い(痛みやすい)ので何はともあれ塩で下茹でします。売っているズワイガニなんかも基本的には釜茹でされた物ですね。あんまりグラグラ茹でると折角の出汁が流れてしまうので甲羅が赤くなったらすぐに上げます。

 ちょっと写真が無いので^^;動画を見て頂いた方が早いのですが、甲羅とツメ足を分けて保存すると使う時に楽です。足はどのみち出汁にしか使えませんので。

甲羅はカニ味噌を甲羅焼きにすると美味い!

 出汁を取るのがメインと言いましたが、多少の手間をかければ実は臭みも気にならない料理方法があります。

 甲羅を開けてミソを掻きだし、トースターで醤油バターと一緒に焼き上げる甲羅焼きが一番おススメです!カニミソの濃厚さを損なわずに旨味を一気に引き出せます!

 臭い臭いと文句をいうクセしてコレはかなり好きな料理です^^。昔はコレを七輪を使って網焼きでやったものです。当時はバターなんて無かったので、単純に醤油だけで食べたものです。

●【草餅】という質素にして贅沢

 近頃はあまり聞かなくなったように感じます。所謂ヨモギ餅なのですが、草餅と言ったりもします。新潟では笹団子という郷土菓子がありますが、その笹団子に使われている団子も草餅であんこを包んだものを使っています。

 さすがに真冬にヨモギは生えていないので保存した物を使用しています。春に沢山集めたヨモギを茹でこぼした後、フードプロセッサーでペースト状にして冷凍保存しておきました。かつてはヨモギを干して粉にしたものを保存したりしてたみたいですが、餅と混ぜるのが難しいです^^;。現代の保存技術を最大限生かして美味しい草餅が作れるのは、とてもありがたい事ですね~☆

 この時期に草餅が食べられるのもなかなか贅沢なので、沢山作って正月の挨拶回りで手土産にしています。

◆冬の暮らしと忘れたくない大切な事

 温暖化が叫ばれるような世の中ではありますが、新潟のような雪国では冬はとても長いものです。先人たちは様々な工夫を凝らして厳しく長い冬を乗り越えてきました。文化文明が発展してくるとそんな厳しい冬も現代では随分と暮らしやすいものとなりました。

 でもそれってなんか勿体ないというか、辛さ厳しさって学ぶ事が沢山あるので、せめてその頃の生活の中にあった文化だけでも現代の生活の中に取り入れて、大事な事は忘れてしまわないようにしたいと思うのです。便利なのは良い事ではあるのですが、その土台に何があるかを忘れてしまうと、感謝の本当の意味まで一緒に忘れてしまうと思うのです。

 現代に生きる我々はたとえ不景気でも、好きな時に好きな物を好きなだけ食べる事ができます。それも【安心安全というオマケ】付きで。自分で捌く必要も無いですし、自分で処理する必要も無いです。

 でもそんな事に慣れ過ぎてしまって我々は、肉がついこの間まで歩き回っていた事も知りませんし、魚がついこの間まで自由に泳ぎ回っていた事も知らないのです。餅が田んぼから来る事をちゃんと知っている人はどれくらいいるのでしょうか?ゼンマイが見ていた景色がどれだけ美しいか知っている人はどれくらいいるのでしょうか?。

 冬は本来淘汰の季節です。それを乗り越える為に冬の暮らしは知恵と工夫の連続です。きっとそこには、生きる事の本質があると思っています。

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