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2020-03-11

美人林~豪雪の里のブナ林~

 新潟県十日町市松之山。新潟県内でも指折りの豪雪エリアにある美人林に行ってきた。今回で二回目で、冬景色をどうしても見たかったのだ。しかし今年は記録的な大暖冬…案の定雪は少なく、道路には全く雪が無くてまるで残雪期のようだった。

美人林とは

 大正末期、木炭の製造の為にこの辺り一帯の木々を全て伐採したそうだ。限られた範囲とは言え、そこそこの広さはあるこの林、話だけ聞いているとどことなく浅ましさも感じてしまう。

 ところが翌年、このエリアの『ブナ』の若芽が一斉に芽吹き、新たな林を形成しはじめたところからこのブナ林を保護しようという気運が湧いたそうだ。野鳥の生息地としても見直され、人の手によって守られた木々の立ち姿が美しいこの林を『美人林』と呼ぶようになった。樹齢は100年程と言う。

 同じ時代に一斉に芽吹いた事から、木々の太さや高さも概ね揃ってより景観を美しくまとめている。ブナは陰樹なので、日照時間が短めな新潟の山間地でも十分成長できる。初めは人間の浅ましい話かと勘ぐってしまったが、人と自然の在り方を体現したような物がこの美人林なのだ。

https://www.tokamachishikankou.jp/bijinbayashi/ ←美人林/十日町市観光協会

静かな雪景色の林

 天候に恵まれたので、ライトスノートレッキングとしては最高のコンディションだった。

F13 SS1/250 ISO-100 -0.3補正 50㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 着いたのが昼前だったが、時期的に差し込む光は斜陽で、森の奥まで光が差し込む良い日だった。県内でも有数の観光スポットなので当然人は来るのだが、足元の装備をそこそこでも用意しないと奥まではとても進めないので、チョット入り込めばすぐに誰もいなくなる。すぐそばにある施設でスノーシューをレンタルしているようで、シューイングのトレースがいくつもあった。ガイドさんに案内してもらって、この林の事や、生き物の事を学べるそうだ。

F13 SS1/500 ISO-100 -0.3補正 65㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 雪の上には動物の足跡もあった。定番のウサギの足跡は見ればすぐにそれと分かる。ここには見慣れない蹄の様な足跡も見かけた。カモシカだろうか…あるいはイノシシか。いや、雪深いこの地にイノシシは居ないのではと思う。イタチの足跡は規則正しくテンテンと続いていた。

F16 SS1/60 ISO-100 -0.7補正 240㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 雪は気の周りから先に融け始める。そこから顔を覗かせていた新芽がまるで春の装いだ。木の周りから雪が解けるのを根開き(ねあき)と言う。これは気が日光から受ける熱を吸収するので、その熱で周辺の雪が解けるのだ。それに加えて木が吸い上げた地下水によって、より暖かさを保つ。雪は光を反射するので、日光の熱だけでは雪を解かすのは難しい。雪が解けるのは、日光によって暖められた周りの物か、気温そのもである。

 しかしこの日差しと気温じゃ、歩き回っているとまるで初夏の様な空気だ。

F25 SS1/80 ISO-100 -0.7補正 15㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム

 ふと上を見上げると、空に向かって真っすぐに手を伸ばしているブナの木々の姿が見えた。整然とした林の姿に息を飲む。。。

二年前

 2018年の10月、時分は秋なのだがこの年は猛暑の連発によりいつまでも夏が終わらなかった。このまま冬が来なかったらどうしようかと(ここ数年は毎年言ってるか?)思った事をよく覚えている。

F9 SS1/250 ISO-200 -0.3補正 10㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム APS-Cクロップ

 秋時分なのに全くと言って良いほど紅葉していない。その気配すらも無い。それでもブナが広げる緑の景色は目に優しい。稲刈りが終わって、玄米の出荷が済むと、こうやってブラブラする時間も少しはできる。

F3.5 SS1/400 ISO-200 -0.3補正 10㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム APS-Cクロップ

 コシアブラだ。コチラはもういつでも落ち葉になる準備はできてると言わんばかりだ。関東周辺の山では天然のコシアブラはすっかり貴重な物になってしまったと聞いた。某フリマアプリでは、盗掘されたコシアブラの枝が売られていた。素人さんが挿し木で育てても、きっとうまくいかないだろうと思うのだが。

F9 SS1/50 ISO-800 -0.3補正 18㎜ K-1 DA18-135 APS-Cクロップ

 静かな景色だ。聞こえるのは鳥のさえずりだけ。さっきまで居た団体さんは帰ったようだ。美人林の中は、案外自由に歩いて散策できる。一応コースらしきものはあるのだが、折角なので自由に森を感じたい。

 足元は木チップが敷き詰められていた。観光地化した事によって歩き回る観光客の踏圧が、ブナの成長に大切な細根を傷め、木を弱らせてしまうそうだ。そこで地面に木チップを敷き詰める事で踏圧を軽減し、細根へのダメージを減らしているのだそうだ。立ち入る事を禁止するのではなく、どうしたら共存できるのかを考えたからこそだと思う。美人林が教えてくれたのは、人と自然の関わり方だった。

F9 SS1/50 ISO-200 -0.3補正 10㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム APS-Cクロップ

 美人林の一番の見所であり、ここを象徴する場所でもあるため池。付近の集落の水源として作られた場所だそうだ。

 水面に映りこむブナの緑がなんとも静かな情景で、早朝の靄に囲まれた時はとても神秘的な風景を魅せてくれる。ここの写真は沢山あるので、ぜひ検索してみてほしい。やはり朝早くから行動できる人は、ベストな瞬間を収められるだろう。

F9 SS1/160 ISO-200 -0.3補正 10㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム APS-Cクロップ

 樹齢にすれば100年を超えるが、木としてのブナではまだ若い部類に入る。表面はスベスベとしていて、幹回りも太くなく抱き着きやすい。いい年のオジサンがブナの木に抱き着くのは、いささか絵面に無理があるが。。。

 ここは人の手によって『守られている自然』。普段自分が入り込んでいる『生の自然』と違ってとても触れ合い易い。例えば、子供に木のぬくもりを教えたいが、公園の木ではイマイチ自然感に欠けるし、ガチの山登りはちょっとどうだろう…かと言って変な所に入って土地の所有者に怒られたりしたら嫌だし…、なんて事を考えてしまっても、このような所なら問題ない。勿論、最低限の良識を教えるのにも良いと思う。

 人によってはきっと、短調な場所ですぐに飽きてしまうかもしれない。でも、こんな場所だからこそ、ゆっくり時間をかけて過ごしてみてほしいと思う。

季節は巡って

F18 SS1/100 ISO-100 -0.7補正 15㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム

 冬の樹林帯は空が良く見える。快晴に恵まれるとホントに爽やかな景色だ。前回ここへ来た時の事を思い出しながら散策していると、やはりここが一番カメラマンが集中する場所になっている。カメラマンは一度三脚を構えるとなかなかそこを動かない。雪の時は足元も悪く、三脚で道幅を占領していては、またSNSで叩かれるネタになりかねない。自分はあまり三脚は使わない。単純にメンドクサイからだ。

ブナの実は毎年実るわけじゃない

今年は中越地方、特に魚沼周辺で野生のツキノワグマが住宅街に現れては、住民とトラブルになるなどの事件が相次いだ。特に今年は大暖冬、雪が降らなきゃ気温も下がらない状況の中、冬眠前の大事な栄養源のブナの実やドングリの実りも少ない年に当たってしまった。そんな状況だから、『冬の穴持たず』と言われる、冬眠が出来なかった熊が沢山現れた。こうなった熊は気が立っていて狂暴、とても危険だし、当然話が通じる相手ではない。熊自身も子供を連れて生きていくのに必死だった。今年はホントに沢山射殺された。

F18 SS1/80 ISO-100 -1補正 63㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 ブナを始め山の実りは大体4~6年くらいのサイクルで豊凶作念を繰り返す。明確な根拠までは分かってはいないそうだが、自然のサイクルの中で毎年一定の実りを付けると、それを餌にする生き物の生存率が上がり、結果的にブナ自身の生存率を落としてしまうからと言われている。

 ブナは5~7年に一度、その種子を餌にする生き物達が食い尽くせない程の量の実りを付けるそうだ。そうすることによって、より生存率を上げると。自然のサイクルの中にあるのは、命の選別と生存のバランスなのかもしれない。

雪景色と散策

F16 SS1/200 ISO-100 -0.3補正 58㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 実際雪山登山なんかでもそうなのだが、雪がしっかり積もっていると割とどこでも自由に歩ける(もちろん、考えて行動しないとズボっとなる)。美人林はドライブついでに来る人が大半だったので、エリア内の殆どの場所が未踏の状態だった。雪国に暮らしている人ならすぐに分かると思うが、スニーカーや大抵のブーツではすぐに靴はグショグショになってしまう。ましてやズボっといったらあっと言う間だ。

撮影における光と影の勉強

 折角コンディションに恵まれたので、綺麗に撮るコツというか、構図の事とか、色々意識して撮ってみた。

F16 SS1/400 ISO-100 -0.3補正 50㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 折れて落ちた枝だ。雪に埋もれながらも光に照らされている姿が印象的だった。自分はよくこんな斜め構図で撮る事が多い。被写体の背景にある物を入れ込んで、それが持っている『物語のような物』を伝えたいと思うからだ。ただ、『写真は引き算』と言う定説からすれば完全に逆行しているが。

F18 SS1/400 ISO-100 -0.3補正 50㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 午後の斜陽で長く伸びた木の陰。ここは溝になっている所だ。結構えぐれているのだが、雪の白さがそれを感じさせない。

F18 SS1/200 ISO-100 -0.3補正 75㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 ここは道ではない。それでも、木々がまるで奥へといざなうように並んでいる。向こう側の景色が木々に隠れているので、深い森の奥をイメージするように撮ってみた。森の中で怖い思いをした人には、ちょっと不気味な景色に見えるかもしれない。

F18 SS1/60 ISO-100 -0.3補正 93㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 美人林の最奥部。本来ならもっと雪に埋もれているのだろうか。ここに来てシマエナガの群が現れた。が、かなり高い木の上を行ったり来たりでうまく撮影できなかった…。

F11 SS1/100 ISO-100 -0.3補正 24㎜ K-1 DA12-24

 木の根元にめをやれば、いかに雪が少ないかよく分かる。

F18 SS1/200 ISO-100 -0.3補正 50㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 木に向かって正面にカメラを構えると、どうも影が強くなる。雪景色の中に居るとよくある事だ。雪に反射した光が強くて、どうしても露出オーバーになってしまう。こんな時は大体PLフィルターとか使うのだが、なかなか安くないので貧乏な自分は諦めている…。あと、PENTAXはよく『階調が死んでいる』とバカにされる。まぁ、そうだと思う。

みんな大好き圧縮効果

 折角綺麗に並んだ木々、望遠レンズも持っていたのでちょっと試してみた。

F18 SS1/60 ISO-100 -0.7補正 240㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 思っていたのとちょっと違う出来になったが、これはこれで面白い写真になったと思う。立ち姿が綺麗な美人林、フレームいっぱいに拡大してもこれだけ整然と並んだくれるのはここならでは。

F9 SS1/250 ISO-100 -0.7補正 410㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 何やら沢山穴が開いている。小動物達のアパートだろうか。森の中でこう言うのを見つけるとちょっとテンションが上がる。一応暫く観察してみたが、特に何も現れなかった。

線が高く整っている景色は魚眼映えする

 魚眼レンズって、このような森や、高層ビル群なんかでとても映えると思う。通常のレンズでは、それがたとえ広角レンズでもなかなか入れ込めないような景色を、コレでもかと歪ませてまで入れ込んだ写真は、とても個性のある仕上がりになる。

F16 SS1/100 ISO-100 -0.3補正 15㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム

 縦構図で撮った魚眼は、地面から頭の上まですっぽり収まる。

F18 SS1/100 ISO-100 -0.7補正 17㎜ K-1 DA10-17フィッシュアイズーム

 人とは一味違った写真が撮りたい人は、魚眼レンズを使ってみるのはおススメ。広角だけじゃなく、ズームタイプもあるそうだが、PENTAX用でラインナップされいるのは見た事無い…

似たような景色になってしまうからこそ、自分の視点が見つけやすい

F9 SS1/800 ISO-100 -0.7補正 75㎜ K-1 SIGUMA APO50-500

 どこをどう撮ってもなんだか似たような写真になってしまう。ネイチャーフォトって得てしてそんな事がよくある。だからこそ『自分の視点』がより際立つのではと思う。実際有名写真家の方が撮った作品は、『他では無い視点』が一番評価されているように思う。今の時代、綺麗な写真は誰でもスマホでも撮れるのだから、自分の視点はとっても大事だし、やっぱり自分の視点がしっかりしていれば『自分の伝えたかった事』が写真に乗ると思う。

 今年の冬は冬山登山も全くと言って良いほどしなかった(でも磐梯山は行った)。そんなか久々の雪歩きだったのでリフレッシュできたのでヨシとした。それにしてもホントに雪が少なかった。ここへ来る道中も、国道脇にすら無い所が多かったし、十日町雪まつりの雪像がドロドロに融けてなんとも切ない感じになってしまっていた。

 きっとこのまま、新潟の冬はなくなっていくのだと思う。

番外編、森の学校キョロロ

F14 SS1/400 ISO-200 -0.3補正 21㎜ K-1 DA12-24

 なぜ外観の写真がコレしかなかったのだろう……。

 美人林のすぐ隣に『森の学校キョロロ』と言うミュージアムがある。美人林の成り立ちや、森の生き物達の事、ヘビやカエルは実際に飼育されていて、間近で観察する事ができる。しかもヘビの観察に関しては、入ってすぐの無料スペースで見学できる。

https://www.tokamachishikankou.jp/experience/crafts/kyororo/ ←森の学校キョロロ/十日町市観光協会

 入館料を払って中に入ってみると、早速モリアオガエルが居た。自分がいつも行く飯豊山系にも居るのだが、しばらく会っていなかったのでなんだかホッとした。ここで大切に守られている。

F9 SS1/25 ISO-800 -0.7補正 24㎜ K-1 DA12-24
F9 SS1/30 ISO-200 -0.7補正 24㎜ K-1 DA12-24

 入館料は大人500円、小・中・高生300円で、綺麗な館内では森の事、環境の事、ここ数十年の積雪量を表す模型や、座敷小上がりの囲炉裏端なんかもある。

 錆びた外観の建物は、かつて大地の芸術祭で作られた物で、ヘビをモチーフとしているようだ。塔のようになっている所は展望台になっていて、結構広く見渡せる。

F4 SS1/4 ISO-1600 -2補正 K-1 DA12-24

 展望台へと登る階段。非常に雰囲気が良い。暗すぎてマジで足元が見えないが、これはこういう展示なのだ。詳細は是非現地で!

蝶の標本展示が圧巻だった!

 このミュージアム、中はさほど広く造られていないので、美人林の散策とセットで行くのにちょうど良いプランが出来るのだが、ここに展示されていた蝶の標本が凄かった。

F9 SS1/15 ISO-1600 -0.7補正 19㎜ K-1 DA12-24

 世界中の蝶を集めたそうだ。標本になった蝶の並べ方にもこだわりがあって、色鮮やかな蝶たちにしばし見とれてしまう。

F9 SS1/20 ISO-1600 -0.7補正 19㎜ K-1 DA12-24

写真だとこういう時伝わりにくいのが高さだ。見上げるほどの高さにそびえ立っている!

F9 SS1/20 ISO-1600 -0.7補正 19㎜ K-1 DA12-24

 小部屋を囲むように作られた標本部屋は、これを作った人の熱い拘りが伝わってくるようだ!

 美人林は、森と博物館のセットでそこにあるので、夏休みの子供達の思い出作りには最高の場所だと思う。自分も子供の頃に、こんな所に来てみたかった。まぁ、実際に生の自然の中に居たのだが。

 新潟にはこんな写真を撮りながら自然を学べる所が沢山ある。それもガチ装備が無くても立ち寄れるような所が多い。実際に行った事ある所も多いが、せっかくこのブログを始めたので、改めて知りに行くのも悪くないかもしれない。

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