2018年12月8日、新潟県南魚沼郡湯沢町大字土樽、地図サービスで見た住所地はこうなっていた。谷川岳に向かう長い縦走路の最初の山になっているようだ。いつも行っているようなヤブだらけで山頂に着くまでなんの展望も無いような山と違って、一登りすれば早い段階で景色が開けて綺麗な稜線風景が伸びやかに続くとってもいい山だった。
国道17号線沿いの二居登山口から入った。駐車場もトイレも整備されていて登山者に優しい。因みに有料駐車場の造りなのだが、自分が行ったときは駐車場が解放された状態でトイレは閉鎖、特に料金が必要だった訳じゃないが、あれで良かったのだろうか?自分以外に7台くらい車が止まっていたが。普段は駐車料金が必要である事を知ったのは随分後になってからだった。
殆ど雪が無いスタート
入山して早々にキツめの登りが続いた。気温は低いが日差しが強くて、薄っすら積もった雪はすぐに解けたらしく登山道は所々泥でグチャグチャになっていた。それでも丸太で整備されているので足の踏み場があって助かった。登山道整備をしてくれる方が居られるのはありがたい事だ。
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ふと後ろを振り返ると苗場スキー場が見える。雪は…殆ど無い。上の方は辛うじて滑走可能か?もう12月なのに、これでは心許なかろう(汗)自分が小学生くらいの時は、11月の中頃にはテレビなんかでスキー場の話題をやっていたように記憶している。
溶ける樹氷が太陽光で輝く
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天候に恵まれたお陰で眩いばかりの日差しを浴びながらの登山となった。これが暑いくらいで(いつもの事だが)、そこそこ角度のある斜面ですでに汗だく、早速アウターを脱いだ。でないと暑くて大変だ。
雪山=寒いイメージは合っていると思うのだが、そこまで標高が高くない所では、動いていると結構暑い。なんならTシャツ一枚でも沢山なくらいだ。稜線とか出て風にあたるとそれはそれは寒い事なのだが、風があまり当たらない樹林帯で斜面をよっこらしてると汗びっしょり。このまま稜線とか出ると汗冷えでガクブルなので替えのシャツとか意外と必須。まあ、着替えた事は無いけど。
青空が見やすくなってきた
日陰は結構草木が凍てついてる。でも同じ場所でも陽が当たっているだけで緑が眩しい。なんとも不思議な光景だ。朝晩の寒暖差が大きいこの時期ならではだろうか、季節の境目のようだ。
上がりきった所でいきなり鉄塔がドーン!ちょっとビックリした。登山道は人の出が入って綺麗に整備されているけど、ここまでゴリゴリの人工物があるのは想像してなかった。でも鉄塔の向こう側に見える丘の上は随分様子が違うぞ!?そこそこ標高も上がってきていよいよ冬山らしくなってきたかな。
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鉄塔の下で休憩がてら上着を着たり軽食を摂ったりとしている内になんだか雲が流れてきた。森の向こうに見えていた丘が少しずつ白く霞んでいく。
元々天気はスッキリしない予報だったのだが、来てみたらこうやって思いの外晴れてくれたので良かった。ここからはいつでも天候が悪化するつもりで行かないといけないな。
いよいよ稜線、冬山らしい景色になってきた
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右手の茂みが開けた瞬間『おお!』という声が漏れた。『平標山』という名が付いた意味が分かるような気がした。
新潟の山々は結構な割合で稜線もヤブだらけなので、正直こんな世界の絶景みたいな景色を持った山って、滅多に登らないのだ。標高が2000mを軽く超えるような山ならその限りではないのだろうが、そういう山って切り立って崖のようになってる事が多いと思う。
身近な山で、こんなに稜線が広く開けているのは『飯豊連峰』くらいしか知らない。そう言えば、もう随分ピークまで行ってないな。。。
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先ほどの写真で見えていた所に実際に立ってみた。遠くから眺めるのとは迫力と言うか、ライブ感が違う。稜線の上を流れる白いガスがまるで武道家のオーラのようにコチラを威圧してくる。
ここまで来るとさすがに風が強い、耳や頬の感覚が無くなっていく。それでも頭上にはまだ青空が見えている。足元の雪は踏み応えがある程凍っていた。
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ハイマツ…で、いいのかな?針葉に付いた雪が日差しで溶けては、稜線の強い風に吹かれてまた凍る。
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新潟の様々な山の中腹で見かける赤い実をつける木。とても寒そうだ。完全に身が落ちていない所を見ると、やっぱり最近まで気温が下がりきっていなかったのだろうか。
雪山に登ると、夏山ではなかなか見れない動物の足跡を沢山見る事が出来る。山の中にある命の気配をリアルに感じる瞬間だ。でもこれは少し違う気がする。誰か愛犬でも連れてきたのだろうか?
程なくして、予想通りガスに巻かれる
ここまで誰とも会う事は無かったのでこの平標山を独り占め気分で歩いていたが、西の空から厚めの雲が迫りつつあった。
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あんまりのんびり歩いていると、終いに吹雪になるかな。雲はまだ切れ切れと、稜線に巻きつくように風に流されていく。
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山の表情が随分と変わってきた。入山した時とは大違いだ。山頂方面から戻ってくる人すらいないので、入山口に止まっている車の人は皆、長い縦走旅に出たのだろうか。
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道端にはノアザミが立ち枯れたまま凍り付いていた。
そこは別世界だった
スタートとは真逆のコンディションになってきた。距離にすればいくらでもないのだが、標高が変わればそこは完全に別世界。同じ山と言えど『上と下』でこうまで違うものか。
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見事にガスに巻かれた。そこには真っ白なサンゴがあった。後ろを振り返っても来た道はもう見えない。海の底に居るようだ。
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ガスに巻かれ、雲海の底を彷徨っている内に海面に出たようだ。頭上には再び青空が広がっていた。
ケータイのGPSで現在地を確かめる。もともとそんなに工程は長くないので、終わりも早い段階で見えるのだが、スタートから目まぐるしく変わる風景にもう随分と長くここにいるように感じる。山頂までもう少しだ。
そして山頂へ
凍てつく風を吸い込んで、熱を帯びた喉が張り付く。思いの外なだらかな道のりに、呼吸は浅く短くなる。汗を滲ませた背中に矛盾するように、指先は冷たくなっていく。
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ふと足元に目をやると、『雪山の宝石』があった。霜柱だ。もはやクリスタルそのもののようなこの霜柱は、地中の水分が急激に冷やされて土を押し上げるように出てくることでこの形になるそうだ。自然界は時折、信じられないような芸術作品を生み出す。そして二つとして同じ物は無い。
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群生する笹はみんな綿帽子を被っている。ずーっと向こうまでだ。冷静に見ているとこれも息をのむ光景だ。
冬の間も緑を保つ笹たちも、これで静かに眠れるのだろうか?夜の街に雪が降った時も、こんな風に風の音だけ残して静けさを漂わせている。
夏のような眩しい空が山頂で出迎えてくれた
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正面は青空、振り返ればガスを纏った稜線。もう、前を向いて歩くしかない。前と後ろでこれだけ風が違う事も珍しいのかな?日差しが眩しすぎて写真が返って暗くなってしまった。まだまだ勉強不足だな。
登頂
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いつも思うのだが、『山頂とはなんと呆気ないものか』と。自分の中ではいつの間にか着いてしまった所のようで、その頃にはもはや目標ですらなくなってしまっている。結局、何事もゴールとスタートはコインの裏表、自分の命が尽きるまでそれを繰り返していくのだ。
この道の向こうには仙ノ倉山、そして谷川岳に繋がっている。
それでも、進める距離は決まっている。自分はどこまで進めるだろうか。。。
下山!
山頂に到達してからの時間は登りの時より慌ただしく過ぎていく。自分一人しか居ない山頂で一しきり遊んで(自撮りしてTwitterにおちゃらけ投稿)から、軽食を摂って下山開始!見る見る内に下からガスが上がってくる。吹雪になられても嫌だしサクサク下るか!
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かつて田中角栄先生は言いった。『三国峠を爆破します!!』ここがあの日の季節の境界線。右斜面が新潟側で、左斜面が群馬方面。 厳密な県境はもう少し山頂寄りの所だが、関東圏は常に見えている所。
雪と生きるのはとても過酷な事。それでも、雪が豊かさを育んでいる事を伝えたい。
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平標山、三国峠、大昔は越後と江戸を隔てる難所であり、上杉家の時代にはここがあるからこそ国が守られたそうな。今は山を愛する多くの人達を魅了して止まない所。
きっと山に慣れた人なら今更な所なのだろう。なんせ谷川岳に続くメジャーな山域だ。今回みたいに誰にも会わないなんて奇跡なくらいだ。
和の心を表すような曖昧さも無く、かと言ってどちらかが強く表れているわけでもない。確かな境目を持って、その両方がお互いを引き立て合いながら移ろう時の中の絶景を織りなしてくれる。
今となっては雪国新潟でさえ短くなってしまった冬。さあ、山々が奏でる季節の歌を愛でようではないか!
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