2020年1月11日。今年は記録的な暖冬小雪で、どこの山も雪が少ない。それが平野部に近いのなら尚更だ。
新潟県阿賀野市に位置する『五頭連峰』。五つの峰からなる花崗岩の山塊で、山域は飯豊に含まれるらしい。中心の五頭山一の峰は標高912m、夏場の好天時で旧スキー場コースのドングリの森から登ればゆっくり行っても二時間程度で登れる。
いつも沢山の登山者が訪れる地域に根差した山で、小学校のレクリエーションでも来る事がある。豊かな森と山頂の見晴らしが、小学生でも日帰りで体験できるので良い山だ。
自分が雪山を初めて体験したのはこの五頭山。それまで冬はオフシーズンとして特に何もしてこなかったので、雪山デビューはつい最近の事だった。それでも新潟に30年以上住んでいるので、どの程度の雪が積もるかくらいは知っている。五頭山の麓でも平気で2mくらい積もる…ハズだったのだが…。
地肌が見える登山道
雪山の一番いい所と言えば、靴が泥だらけにならない事だと思う。でもこの日の五頭は違った。入山口は雨後のようにグチャグチャ、靴が埋まる程だったので写真すら撮っていなかった。
歩くのがやっとだったので、落ち着いて写真を撮ったのは道に雪が出始めてからの事だった。こうやって見てみると、風が抜けやすいこの辺りでもいつもの冬なら1mくらいは積もっているハズなのだが、ご覧の通り地肌が見えている。
登山道の端の草木達。本来なら深い雪の下で眠りにつき春を待つハズだった。まだ一月だというのにまるで残雪機の春山のようだ。所々見え隠れする緑が眩しく、かえって不穏に感じてしまう。
冬でも綺麗な緑色を魅せてくれる笹類。この写真だけ見ていてもとても正月明けとは思えない。低山とはいえ、かなり雪が降る地域の更に山の中だ。ボーっと歩いていたら自分が山の中にいる事を忘れてしまいそうだ。
雪は森を眠らせる
五頭連峰も飯豊山系同様、ブナやナラなどの紅葉落葉樹を中心に植生が出来上がっている。深い雪の中にたたずむ木々の様は、時折息をのむ程美しい表情を見せてくれる。それが冬の森の寝顔なのだ。
根元の草木を雪が覆い隠すと、スラっと伸びた木々が空に向かって静かな立ち姿をしているものだが…。ツルや枝葉が寝付きの悪い子供のように騒がしくて、冬を感じる感覚がマヒしてきた。この日は日差しも強く、登っているとかなり暑く感じた。
ノウサギの足跡。雪山ではどこへ行ってもよく見かける。夏山だと、動物の足跡はこんな風に見れないので、雪山登山で命の気配を感じる物の一つではないだろうか。雪が少なくてノウサギ達はさぞ食うに困らん事だろう。
木々達を眠らせる雪はその役目を終える時、まるで春の訪れを木々達に知らせるようにその周りから溶けていく。それはまるで早く葉を茂らせろと急かしているようだ。雪深いエリアなら2m程の深さの穴になっている事もある。子供の頃、冬の森で覗き込んで顔から落ちたのをよく覚えている。
さぁ、だいぶ登ってきたぞ。ここまで来れば流石にそこそこ雪がある。それでも例年に比べりゃ無いも同然なのだが、それでも雪山らしい風景に恵まれて良かったと思う。
布団が足りなくて、なんだか寝つけなくて…静かに眠れる冬であって欲しい。
在るべき姿
少々キツめの斜面を登り続け、振り返れば越後平野が平がっている。普段はヤブに囲まれたこの山でさえ、冬は展望を広げてくれるから雪山は良い。
白と青のコントラストが眩しい。この木々も、例年なら半分くらいまで雪が積もっている。
快晴に恵まれた雪山では、こんな風に眩しく無駄のない景色を見る事が出来る。マジックアワー同様、なんだか自分が写真が上手くなったような錯覚に陥る。
季節の境目が無くなってしまった現代、この眠れない里山は雪の無い雪国新潟を見下ろして何を思うのだろうか。
飯豊連峰を望む稜線へ
普段の五頭連峰ならヤブが凄くてあんまり展望が無いのだが(何度も言う程ヤブ山)、雪が積もってくれる事で飯豊連峰を始め、周辺の山々が広く見渡せるようになる。それだけじゃなく越後平野も広く見渡せるので、低山ながら雪山としてのポテンシャルは高いのではと思う。
もちろんここも本来なら深い雪の下。遥かに霞む越後平野には雪が無い。茶色い地肌が剥き出しのままだ。
五頭連峰の稜線の向こうに見えるのが飯豊連峰。さすがに標高が2000mを越えるので雪がしっかり積もっている。
五頭本山の山頂はまだもう少し先だ。雪の五頭を登る時、この辺で引き返す事が多い。いつでも来れる山だし、ここまで来れば大抵の人は満足すると思う。
五頭連峰はそれぞれの峰に神様が祭られていて、北方から北から 五ノ峰(約860m)、四ノ峰(871m)、三ノ峰(873m)、二ノ峰(約890m)、一ノ峰(約910m)で分かれる。しかもこれは主稜線ではなく、長く伸びた尾根の突起で形成される部分に付いた名称。折角なので、いずれ五頭もしっかり歩いて記事にしてみたい。
いつも会うお地蔵様。勿論例年なら雪の下で静かに眠っている。よくここで昼食を摂る。いつか、言葉を聞かせてくれますか?
近くて遠い飯豊連峰
飯豊連峰の最高峰大日岳。少々強めにレタッチして霞を取り除いた。しょっちゅう入る山域だが、上半分は殆ど行かない。ましてや雪の時期は、他の名峰と違って道が無いので、とてつもなく工程が長い。テント担いで二泊三日が最速になるかな…。
それでもこんな天気のいい日にあの稜線を歩いたらどんなに気持ちが良い事だろうか。自分にもっと時間があったら、ましてや自宅から近い山なんだから、行ってみたい。
雪が降らない新潟になってしまうのだろうか
『ゲレンデや雪まつり会場にだけ降って欲しいですね!!』FM新潟のラジオパーソナリティが言う。そんな無茶苦茶な…人間の都合だけ考えて自然界を見るのは違う気がする。この期に及んで都合よく降る事を願うなんて言語道断、もし神様が見ているならきっと、そんな事をぬかす新潟にはもう雪を降らせてくれないだろう。
人間の業の深さは古来より戒めの如く語られてきた。現代においてなおそれは地脈のように続いている。
長く伸びて枝分かれして、重なり合ってまた伸びる。同じ方に伸びる枝ばかりなら、森はこんなに豊かにならなかったでしょう。同じ森に生きるなら、干渉せず否定せず、自分の空へ伸びていく。
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