toggle
2020-07-06

巻機山 ~霧の中のブナ林と解放感溢れる稜線~

『巻機山』標高は1.967m、新潟県南魚沼市にある百名山。

 6月27日土曜日、数日前から天気予報と睨み合いを続けた末、多少天候に恵まれなくても行こうと決断、雨とガスの中の山行となった。ずぶ濡れも覚悟の上、それなりの準備をしての入山だったが、稜線に到達する頃には雨は止み雲は晴れ、結果的に当初覚悟していたずぶ濡れは無く爽やかな山行となってくれた。

 山菜採り以外の山登りではやっぱり、『絶景』と『自然』の姿を求めて行くので、今回も沢山写真を撮った…と、同時に、「もっとこう撮れば良かった」みたいな点も改めて沢山出てきた。

 綺麗な写真がSNS上に溢れている今の時代、勿論自分の力量や機材では到底そんな作品群の中に食い込む事すらできないが、日々表情を変える自然界の風景を『自分自身の視点』でクロップした巻機山の姿を是非見て欲しい。

◆雨が降るスタート

 巻機山登山口で一番メジャーであろう桜坂駐車場、朝五時頃に到着した時にはそこそこ雨が降っていた。正直、この時点で帰ろうとしていた。折角登るならなるべく天気が良い方が良いに決まっているが、自分の場合天気が良かった経験が殆ど無いので諦めの気持ちも込みで登る事にした。折角ここまで来たしね。

 入山直後は特に見所も無く、深い樹林帯が続いていた。複雑な植生でヤブも立っている。初見の山なので、「樹林帯を抜けるまではこうなのか?」と、思っていたが案外そうでもなかった。

●整然と立ち並ぶブナ林

 雑木林然とした森林からいつの間にか綺麗な立ち姿のブナ林に変わっていた。後で知った事だが、コレが結構名物みたいになっていた。そんな巻機山のブナ林、霞を纏ってなんとも幻想的な光景が広がっていた。

F7.1 SS1/25 ISO-200 -1.3EV 24㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 まだ暗い朝の森の中。立ち並ぶブナの木々の間を、押し込むように霞がかかっている。

F7.1 SS1/25 ISO-200 -1.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 進んでも進んでも霞の森の中。登山道は明確にできているので迷う事は無いが、なんだか吸い込まれそうな雰囲気だ。

F7.1 SS1/20 ISO-200 -1.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 結構長く続くブナ林。似た様な構図になってしまうなぁ。登山道の、特に樹林帯では景色の変化は殆ど無い。勿論視点を変えれば何か見えてくるものもあるのかもしれないが、折り返しながらジグザグに登るような登山道は同じような風景の繰り返しが多い。そんな中でも何か見つけられれば、きっとそれが才能なんだろうな…イカンイカン!山登りはどうも余計目に考えて歩いてしまうな。

●景色が晴れないからと言って、悪いわけじゃない

 山登りでガスに巻かれると、折角の絶景が拝めず残念になる事が普通なのだが、シチュエーションによってはそうとも限らない。むしろガスがかかっているからこそ、山の威厳が示されているようで、自分は好きなシーンだ。

F8 SS1/40 ISO-200 +0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 この場所はそれなりに見晴らしのある所のようだが、ご覧の通りすっかりガスに覆われている。でも見晴らしが無いこの景色が自分にとっては最高の風景になった。

F8 SS1/40 ISO-200 +0.7EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 それなりに高性能な機材を使ってはいるが、それをシッカリ生かしきれない自分の実力の無さとセンスの無さもあって、折角のこの神聖さも感じるシーンがイマイチ伝わらない気がする。そうだとしたら、なんだか写真を撮る事そのものが勿体無い気がしてくるのだ。

 写真も一人でやっているので、近しい誰かと課題を共有する事は無い。それでもやっぱり考えてしまう。こんな時他の人はどうして解決を導き出しているのだろうか…。

◆樹林帯を突破!小さな花々がお出迎え

 いつも森が終わる瞬間は胸がすくような感覚になる。登山道にせり出すように茂る木々やヤブの圧迫感は結構なもので、そこからの解放感は奪われた呼吸を取り戻しているような感覚になる。

F4 SS1/400 ISO-200 -0.7EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 時刻は七時半過ぎ、樹林帯で夢中で写真を撮っていたらすっかり時間がたってしまっていた。登山道の向こうから射しこんでくる朝陽が眩しい。朝露を纏った花々が提げた雫が、朝陽に射されてキラリと輝いていた。

F4 SS1/250 ISO-200 -0.7EV Ricoh GRⅢ
F3.2 SS1/160 ISO-200 -0.3EV Ricoh GRⅢ クロップ スクウェア
F2.8 SS1/80 ISO-200 0EV Ricoh GRⅢ

●いよいよ絶景フェーズへ…でもやっぱりガス

F9 SS1/200 ISO-200 +0.3EV 24㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 道端の小さな花々を愛でてからしばらく歩いた。もうガス…と、言うか雲…樹林帯の中に居るより何も見えない状態が続いていた。振り返ると雲の隙間から辿ってきた道が見えていた。

F4 SS1/640 ISO-200 0EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 向かう先もずっとガスに覆われている。雲の中を歩いているみたいだった。

 そう言えば北京オリンピックのテーマソングに使われたレミオロメンの『もっと遠くへ』と言う曲のMVも、ヴォーカルの藤巻良太さんがガスに覆われたガレ場の様な所を登っていくシーンが印象的だった。頭の中では勿論、同曲が流れていた。

F4 SS1/250 ISO-200 +0.7EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 この辺りの至る所に『植生復元中、入らないで!』の置き札が有るのを見た。古くなった木道だろうか?それにしても整備されている範囲が広いように思う。ガスが掛かって良く見えないが、まるでスタジアムの観客席の様な様相を呈している。

 詳細については分からないが、この階段も古くなり傷んでいて、あまり安全な状態ではなさそうなので、修繕するよりも『自然に還す』と言った結論に至ったのだろうか?登山の為だけならさほど広い道は必要としないので、『人間の使っていた道を山に帰す』と言うニュアンスで捉えた。これもまた、人と自然の関わりの一端として。

●ついに山頂到着!と、見せかけて(お約束)

F7.1 SS1/400 ISO-200 +0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 やった!山頂だ!…と、見せかけてここは前巻機山。通称ニセ巻機と呼ばれるポイント。事前に調べた限り、ここで一旦ぬか喜びするのがお約束らしい。

 ガスが抜けたのは突然の事だった。こんなに急に晴れる事もあるんだろうか?そう思うくらい突然景色が開けて、それなりに高い所まで登って来ていた事にようやく気付いたくらいだった。

 景色の向こうに見えるのは伸びやかな稜線風景。結構な数の人が歩いているのが見える。流石は人気の百名山、人の居ない山ばっかり行っている自分にとってはむしろ人が多い方が新鮮だ。

 なんにしてもこれは自分自身の日頃の行いの良さによるご褒美的な何かである事は間違いないようなので、遠慮なくこの景色を貪らせて頂くとしよう!

ビチョビチョのワタスゲと、水芭蕉最後の一輪花

 この時期SNSの登山の話題はチングルマなど季節の花の話でいっぱいだ。特に今年は、『花の百名山』と言った具合に、標高の高い山へ挑むよりも、比較的ライトに登れて沢山の高山植物を楽しむような登山が目に付く。自分が巻機山に行ったこの日、近くの平標山の駐車場は朝早くから満車だったそうだ。

F5.6 SS1/500 ISO-200 0EV Ricoh GRⅢ

 登り返しに向かう木道の傍に沢山のワタスゲが生えているのを見つけた。が、この日は基本的には雨、SNSで見るようなモフモフポンポンのワタスゲとは随分違う、ビチョビチョで習字の筆のようになってしまい、隣と絡まって重くなった頭をもたげている切ない姿になっていた。

 自分はワタスゲを見たのはこの日が初めて。初見でこの高山植物の良さが出ていないシチュエーションは残念だったが、これもまた自然の在り方である。

F5.6 SS1/500 ISO-200 0EV Ricoh GRⅢ

 降りきった所にある避難小屋をスルーして登り返しを始めると、程なくしてガスは完全に無くなり、青空が広がった。途中小さな湿地帯を通るのだが、そこにはよく見慣れた水芭蕉が咲いていた。ご覧の通りすっかり旬は過ぎ、実を付け種を残す段階に入っていた。

 こんなに標高の高い所にも(1.600m程?)水芭蕉は咲くんだと初めて知った。最後に一つ残っていた花が、木道を歩いてくる登山者を迎えては見送っていた。

F7.1 SS1/500 ISO-200 -0.3EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24 アスペクト比16:9

●御機屋分岐、本山山頂までもう少し

 登り返しを登りきると、御機屋と言う巻機山本山と割引山と言う別山に向かう二つの道分岐点に到達する。振り返ると、まぁそこそこ歩いてきたな~と、思える景色が広がっていた。

 雲は流れているが、被ってくる程ではない。分岐点には沢山の登山者が休憩していたので、ここには止まらず巻機山本山~牛ヶ岳方面へ進んだ。

F7.1 SS1/500 ISO-200 0EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 なんて開放的な稜線風景なんだ…近所にこんな山があったらな~…なんて思いながら歩いているとふと、また湿地が現れた。何てことはない、ほぼタダの水たまりなのだが、完全に笑っていた。大勢の人が訪れる山、神様も喜んでくれているのだろうか?

◆巻機山山頂

F7.1 SS1/1600 ISO-200 -0.3EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 やった!ついに山頂についたー!……って、なんとも燃焼度の低い登頂だった。一応ケルンが造られているが、さほど広くない山頂スペース。眺望も雲に囲まれて見通しは良くなかった(汗)その点はいつもの事かw

 他の多くの山と違って、山頂に神社とかが無いのでその分殺風景にはなっていた。これが本来山のあるべき姿に一番近いので、実はこの風景がベストなのかも知れないが、神社がある山に行く事が多い自分にとっては、ホントに登って来ただけ感が強かった。一応地図上ではここが本山山頂で間違いないと思う。おっと、一休みしている小間に次から次へと人がやって来る(汗)休憩もそこそこに、このまま牛ヶ岳に向かった。

●解放感溢れる稜線歩き、これぞ登山の醍醐味!

F7.1 SS1/1600 ISO-200 -0.3EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24 アスペクト比16:9

 普段の山行はヤブ山が中心の自分にとって、こんなにも絵に描いたような稜線歩きは特別な時間だ。超開放的な景色の中では蒸しあがる空気で汗だくになる事も無い。顔や体にまとわりついて刺しまくってはボコボコにされる虫も居ない。ヤブの向こうから突然動物が飛び出してくる事も無い。むしろ他の皆さんがやっている山登りってコレの事なのではなかろうか。だとしたら自分は普段どれだけロクでもない山登りをしている事か。

F9 SS1/800 ISO-200 0EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24 アスペクト比16:9

 滅多に来れないタイプの稜線風景、どんな風に写真を撮ったらいいのか全然分からない。ああ、自分の目で見ているこの景色はこんなにも素晴らしいのに、写真に収めたその風景にはそれが全然入っていない。何度撮り直しても同じ事の繰り返し。何がどうダメなのかを理解できない中卒脳。なかなかどうしたものか…。

◆牛ヶ岳でゴール、そして此度の山行は折り返し

F7.1 SS1/1000 ISO-200 -0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 そうこうしている内に『牛ヶ岳』の山頂へ到着した。なんとも飾りっ気の無い山頂だ。それもそのハズ。牛ヶ岳と言う名前が付けられた山頂ではあるが、周辺を囲んでいる名山への縦走路の一部なのだ。自分はここまで来るのに約5時間もかかってしまったが、山屋の猛者たちは更にここから各名山へと向かうのだ。自分もいつかはそんな山行してみたい。

F4 SS1/3200 ISO-200 0EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 牛ヶ岳を出てから改めて撮影。折角ここまで来たのに、なんだか自分の中にバチっと来る一枚が撮れない。写真は難しい、だから面白い!

 ポルノグラフィティーの『アゲハ蝶』という曲にこんな一節がある。

‘‘旅人に尋ねてみた どこまで行くのかと いつになれば終えるのかと 旅人は答えた 終わりなどないさ 終わらせることはできるけど‘‘

 とても印象的なこの歌詞、山旅も写真の上達も、自分のやっているライフワークの全てが終わらせる事だけは出来る終わりのない旅なんだと思う。

 さあ下山だ!存分に駆け下りよう!

F5.6 SS1/1000 ISO-200 0EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 わりめき岳との分岐点では次々と登って来た人と、これから下山をする人でごった返していた。勿論、こんな所で密になっていたくない(単に人が嫌いなだけ)のでサッサと降りる。景色の中には常に人が居る状態になっていた。

F5.6 SS1/1000 ISO-200 +0.3EV 220㎜ PENTAX K-1 FA80-320

 チョット望遠レンズに付け替えてみた。このレンズは随分古い物、PENTAXがまだフイルムカメラだった頃のKマウントレンズだ。一応フイルムは35mmなので、フルサイズセンサーのK-1では普通にクロップ無しで使える。勿論、古いレンズな上にベースはレギュラーモデル、描画力はとっても微妙だ!多少設定は合わせてみたつもりだが、随分薄味な写真になった気がする。でも多分フイルムの時代って、コレが普通だった。今が凄い時代なんだな。

F4 SS1/4000 ISO-200 -0.7EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 やあ!さっきはどうも!ビチョビチョだったワタスゲ達もだいぶ乾いていた。チョット触ってみたけど、うん…モフモフはしていないな。ヨシ!行こう!

F6.3 SS1/500 ISO-200 0EV 21㎜ PENTAX K-1 DA12-24 アスペクト比16:9

 途中まだまだガスに巻かれているポイントはあったものの、登りより天気は安定していた。下山までは十分天気は持ちそうだ。

 ここ何年か下山時に膝がズキズキ痛くなるようになった。コレが結構痛くて、少しくらい休んでも改善しないし、無理に動くと何日か響く事もある。でもこの日は多少膝に疲労感は出たものの、傷むところまではいかなかった。

F7.1 SS1/400 ISO-200 +0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 下界は結構晴れているように見える。スカッと抜けた景色も良いけど、やっぱり山の風景は多少雲がかかっているくらいが迫力があって良い。問題はこの迫力をどうやって写真に乗せられるか…だ…!

●文字通りのグリーンシャワー、良い山行だった

F13 SS1/80 ISO-200 +0.7EV 19㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 樹林帯に入ると降り注ぐような緑の光に包まれた。蒸してはいたが、下りなので体温はそこまで上がらない。そこそこ快適な森林浴。

F6.3 SS1/40 ISO-200 -0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 今朝は霧に覆われていたが、こんなにキレイなブナ林だったのか!

F6.3 SS1/100 ISO-200 -0.3EV 18㎜ PENTAX K-1 DA12-24

 十日町市の美人林に匹敵するのでは?美人林は一度伐採で真っ新になった所に、同じタイミングで芽吹いてきたブナ林、同時に成長するから立ち姿が整然と整った。ここもそんな歴史でもあるのだろうか?

◆無事に下山、今回も色々勉強できた

 あっという間に降りてきた。涼しい時間に登ってしまえば、下山は気温が高くてもさほど苦にはならない。

 自分自身の視点を持って写真を撮っても、やっぱり誰かとよく似た一枚になりがちで、そうならないように撮る事が出来るのが才能なのかなと思う。同じ所で写真を撮っても圧倒的に出来の違う一枚を撮っている人は必ず居るもので、それが自分じゃない事だけは確かなのだ。

 今回の巻機山も、風景そのものは最高のものに恵まれたと思う。これだけ良い原材料を持ってしても、自分の実力の低さが出る。

 日々勉強。そして『考えるな、感じろ』と。やっぱり自然は良い、それを撮りたい。そんな自分自身の道筋みたいなものを再確認できた山行だった。

F4 SS1/20 ISO-200 -0.7EV 24㎜ PENTAX K-1 DA12-24
タグ:
関連記事